黒い床の上で、赤く光るサーバーラックが赤い隔離の円の中に置かれ、手前のバックアップ装置から緑の光の線が伸びた1台だけが白く点灯して復旧し始めている絵。

組織・体制対応・復旧

ランサムウェア復旧の費用と期間|隔離・調査・業務再開までの判断

ランサムウェア被害の調査・復旧費用は、警察庁の2026年上半期の調査で、回答35件のうち21件が1,000万円以上だった。

調査は2026年1〜6月の被害組織が対象で、費用は100万円未満から1億円以上まで分かれた。復旧期間を答えた48件では、1週間未満が17件、1か月以上が12件、回答時点で「復旧中」が13件あった。日数と費用は、どの機器が暗号化されたか、使えるバックアップが残っているか、侵入経路をどこまで調べるかで変わる。

調査・復旧費用の分布(回答35件)上の3段の21件が1,000万円以上。警察庁の資料から作成
1億円以上
4件
5,000万〜1億円
6件
1,000万〜5,000万円
11件
500万〜1,000万円
3件
100万〜500万円
5件
100万円未満
6件

業者に頼む前に決めておくのは、初動・調査・復旧・再発防止のどこまでを頼むかと、どの業務から再開するかだ。決まれば、見積もりの範囲と作業の順番が決まる。

インシデント対応の基本と、初動から報告までの進め方は「インシデント対応のフロー|不正アクセス・ランサムウェアの初動から復旧・報告までの手順」で説明している。

ランサムウェア復旧の費用・期間が変わる条件

ランサムウェア復旧の費用は調査・再構築・対外対応をどの範囲で行うかで、期間は業務に欠かせないシステムが止まったか、バックアップから戻せたかで変わる。

ランサムウェア復旧の対象範囲と作業費

日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)は講演資料で、事故対応の費用を費目に分け、外部の依頼先と費用の例を示す。

費目主な依頼先資料が示す費用
原因・被害範囲の調査インシデントレスポンス事業者300万〜400万円
システム復旧構築したITベンダーなど規模で異なる
再発防止セキュリティベンダーなど規模で異なる
法律相談法律事務所数十万円〜
お詫びの掲載・DM・新聞広告DM業者、新聞社DM1通130円〜、全国紙240万円前後
問い合わせ窓口コールセンター事業者3か月700万〜1,000万円(試算)

JNSAは別に、事業の中断による売上の減少と、その間の人件費などの固定費を「利益損害」とする。ランサムウェア被害を受けた8組織(2017年1月〜2022年6月の被害)の平均被害金額は2,386万円、社内の対応工数は平均27.7人月で、人件費と逸失利益を含まないため実際の損失はもっと大きいとJNSAは見ている。

個人データの漏えいのおそれがあれば、個人情報保護委員会へ報告する。委員会の漏えい等の案内は、ランサムウェアで個人データが暗号化され復元できなくなった場合を例に挙げ、発覚したらまず速やかに、不正な目的によるおそれがある場合は発覚日から60日以内の報告を求める。

我々の見方では、費用の幅を決めるのは暗号化された機器の台数と種類だ。端末数台なら再インストールで済むが、ファイルサーバーや業務システムでは再構築とデータの整合の確認が加わる。身代金を払っても調査と再構築は残る。JPCERT/CCもFAQで、ファイルが戻るとは限らず被害の原因も残るとして、支払うべきでないとする。

ランサムウェア復旧期間を左右する前提

警察庁の同じ資料では、バックアップの有無を答えた50件のうち44件が取得していた。だが、復元の結果を答えた40件のうち29件は戻せなかった。

取得していたバックアップの多くが、攻撃の後に戻せなかった
バックアップからの復元(回答40件)29件が戻せず
  • 戻せず:暗号化・消去された
  • 戻せず:運用の不備
  • 戻せず:その他
  • 戻せた
警察庁の令和8年上半期の資料から作成。

警察庁は、業務に欠かせないシステムが無事だった組織で、通常業務を続けながら時間をかけて復旧し、期間は長いが費用は小さかった例も注記する。

バックアップは、攻撃で消されずに戻せるかを、保管先ごとに次の点で確かめる。

  • 社内のファイルサーバー・NAS:バックアップを消せる権限を持つアカウントを洗い出し、最後に復元を試した日とかかった時間を記録する
  • クラウドのサーバー・ストレージ:バックアップの削除保護と保持期間の設定、別のアカウントや別の場所の複製があるかを確かめる

ランサムウェア復旧の費用を左右する隔離・調査・復旧手順

ランサムウェアの復旧は、隔離、保全と調査、侵入経路の対処、復元、再開の判定の順に進める。調査の前に機器を初期化すると、侵入経路が分からないまま業務を再開することになる。JPCERT/CCは、侵入経路を塞がずに復旧すると、別の攻撃グループの被害を受けうるとする。

隔離から再開の判定までの5段階
隔離電源は入れたまま、ネットから外す
保全と調査ディスク・メモリ・ログを残し、経路を調べる
侵入経路の対処機器を直すか止め、管理者のパスワードを変える
復元重要な業務から安全な環境で再構築
再開前の確認再開の判定決めた基準で責任者が承認
JPCERT/CCとCISAの資料から作成。

ランサムウェア被害の隔離と調査

JPCERT/CCは、暗号化や侵害が確認されたシステムを、切り離せるものからすぐ隔離するよう勧める。複数のシステムが同時に暗号化された場合は、管理サーバーの管理者アカウントの乗っ取りを疑い、侵害の有無の調査とパスワードの変更を挙げる。

米国のサイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(CISA)はランサムウェア対策ガイドで、電源を切るのはネットワークから切り離せない場合に限るとする。メモリ上の感染の痕跡や証拠が失われるためだ。影響を受けた機器の一部から、ディスクの複製とメモリの内容を取ることも勧める。

ログも攻撃者に消される。警察庁の資料では、ログの保全状況を答えた48件のうち全て残っていたのは10件で、使えなくなった原因(28件)は犯人による削除が15件、暗号化が4件、保存期間の経過が6件だった。

バックアップ復元と業務再開の判定

JPCERT/CCは、切り離したシステムを戻す前に、マルウェアやバックドア、不正な設定が取り除かれたことを確かめるとする。CISAは、安全な環境を整えた後に、影響したシステムのパスワードをリセットするよう勧める。

バックアップがなければ公開されている復号ツールを探すことになるが、警察庁は、対応する種類が限られ、バージョンの違いで使えないことや全てを戻せないことがあるとする。ツールで戻せても、侵入経路の対処と再開の判定は別に要る。

ファイルが開けても再開してよいとは限らない。我々は、再開前に次の4点を確かめることを勧める。

ファイルが開けても、4点を確かめるまで再開しない
4点を確かめてから再開する復元後侵入経路の機器修正か停止管理者のパスワード変更済みデータの取得日時侵入前か確認再開後の監視担当と期間を決定責任者が結果を見て承認する
ファイルが開けた時点で再開する復元後侵入経路の機器そのまま管理者のパスワード元のままデータの取得日時未確認再開後の監視なし同じ経路から再び被害を受けるおそれ

CISAは、事前に決めた基準に沿って、指名されたIT部門の責任者がインシデントの終了を宣言するとする。再開は、情シスと業務部門の責任者が4点の結果を見て承認する。

ランサムウェア復旧の費用見積もりと作業範囲

ランサムウェア復旧の見積もりは、各社がどの作業を含むかをそろえてから比べる。表のとおり、調査と復旧は依頼先が分かれやすく、境目に担当のない作業が残りうる。

ランサムウェア復旧見積もりの作業範囲

見積もりは、作業ごとに次の点を確かめる。

作業確かめる内容作業量を決めるもの
初動支援隔離・保全の助言、現地対応拠点数、対応時間帯
調査侵入経路、広がり、持ち出しの有無、報告書保全台数、ログの期間と量
再構築・復元再インストール、設定、データ復元、動作確認台数、業務システムの数
監視・再発防止監視の期間、設定の見直し監視の期間と範囲

調査の見積もりは、答えを出す問いをそろえて比べる。侵入経路だけか、情報の持ち出しの有無まで調べるかで、保全する機器もログの期間も変わる。

復旧費用の追加条件と依頼者の準備

見積もりの後で費用が増えるのは、主に次の場合だ。

  • 調査の途中で、暗号化された機器や侵害されたアカウントが増えた
  • ログがなく、端末の痕跡を広く調べることになった
  • 情報の持ち出しの疑いが出て、調査を追加した
  • 再開前の確認で問題が見つかり、再構築をやり直した

それぞれ台数と日数のどちらで計算するかを契約前に確かめる。機器の一覧とネットワーク構成図を渡せれば、業者は調査の対象を早く絞れる。

ランサムウェア復旧の相談前に必要な証拠保全と準備

ランサムウェア復旧の相談の前には、消えやすい情報から順に次の5点を記録し、専門家へ渡す。

  1. 被害に気づいた時刻と、きっかけ(脅迫文の画面、開けなくなったファイル)
  2. 隔離した機器の一覧と、隔離した時刻・担当者・電源の状態
  3. 機器ごとのログの保存日数と、すでに消えた期間
  4. バックアップの最終取得日時と保管場所
  5. ネットワーク構成図、機器の一覧、VPN装置など外部から接続できる機器

警察庁は警察署かサイバー犯罪相談窓口への通報・相談を求め、提供する情報の例に脅迫文、通信ログ、ディスクイメージ、メモリダンプ、システム構成図を挙げる。

4と5は被害の前に用意できる。警察庁が2025年の被害組織に行ったアンケートでは、回答111件のうち、サイバー攻撃を想定した業務継続計画(BCP)を策定済みは20件だった。

BCPがあっても、サイバー攻撃を想定していない組織が多い
BCPの策定状況(回答111件)20件が想定
  • サイバー攻撃を想定したBCPあり
  • 想定しないBCPあり
  • 未策定
警察庁の令和7年の資料から作成。

依頼先と警察の連絡先、再開を優先する業務、費用を決裁する人を決めておく。サイバー保険に入っていれば、補償の範囲と事故の連絡先も同じ一覧に入れる。

まず、自社のバックアップを本番と同じ管理者アカウントで消せないか、最後に戻せたのはいつで何時間かかったかを確かめ、調査と復旧の依頼先を決めておく。

緊急の場合AI攻撃リスク即点検サービス公開情報と、契約後すぐに用意できるアクセスの記録から先に調べ、被害や狙われやすい構成がないかを早く確かめます。

よくある質問

身代金を払えば、復旧の費用は安く済む?

安く済むとは限らない。JPCERT/CCは、払ってもファイルが戻るとは限らず被害の原因も残るとして、支払うべきでないとする。払っても侵入経路の調査と再構築は残る。

無料の復号ツールで戻せれば、業者に頼まなくて済む?

済むとは限らない。警察庁は、公開の復号ツールは対応する種類が限られ、バージョンの違いで使えないことや全てを戻せないことがあるとする。戻せても、侵入経路の対処と再開の判定は別に要る。

ランサムウェア被害は、警察や個人情報保護委員会に届け出る?

警察庁は、警察署かサイバー犯罪相談窓口への通報・相談を求めている。個人データの漏えいのおそれがあれば個人情報保護委員会にまず速やかに報告し、不正な目的によるおそれがある場合は発覚日から60日以内に報告を終える。脅迫文や通信ログ、システム構成図は消さずに残す。

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