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日立、Anthropicの重要インフラ防衛に創設パートナーとして参画 止められない設備をAIでどう守るか

この記事のポイント
  • 日立製作所が、Anthropicの重要インフラ向けサイバー防衛プログラムに創設パートナーとして参画する
  • 電力・水・製造・交通の制御システムを対象に、AIモデルのClaudeで脆弱性の検出と修復を速める。創設パートナーは日立を含む11社
  • 日立は制御・運用技術の知見を持ち込み、得たものを自社の「HMAX Cyber」に戻す

日立製作所は2026年10月9日、Anthropicが前日(米国時間10月8日)に立ち上げた重要インフラ向けのサイバー防衛プログラム「Critical Infrastructure Defense Program」に、創設パートナーとして参画すると発表した。電力や水道といった社会インフラのシステムを対象に、AIを使った脆弱性対応を進める。発表の中身と、その背景にある業界の事情を整理する。

1. 何が起きたのか

日立が参画するのは、AI開発企業のAnthropicが立ち上げた、重要インフラ向けのサイバー防衛プログラムである。日立の立場は創設パートナーで、プログラムの初期から関わることになる。

発表されている具体的な関わり方は、ワーキンググループなどへの参加だ。日立はそこへ、重要インフラ分野における制御・運用技術の知見を持ち込む。制御・運用技術は一般にOTと呼ばれ、工場や発電所などで設備そのものを動かす仕組みを指す。事務作業に使われる情報システムとは、求められるものも止められる条件も違う領域である。

プログラムの仕組みは少し変わっている。Anthropicは、事業者がもともと信頼しているシステム会社やセキュリティ会社の製品・サービスにClaudeを組み込み、その会社を通して届ける。Anthropicは提供側に、最上位のモデル、現地に入るエンジニア、脅威の研究を出す。対象として挙がっているのは、電力・水・製造・交通の制御システムである。

創設パートナーは11社。Accenture、Deloitte、PwCのようなコンサル会社、CrowdStrikeやPalo Alto Networksといったセキュリティ会社に並んで、設備を作る側の会社として日立とRockwell Automationが入っている。

Anthropicは、インフラ事業者に「信頼されている会社」を通して届ける

日立はその届け手11社の1社。設備を作る側の会社として加わった。

Anthropic最上位のClaude、現地に入るエンジニア、脅威の研究
↓提供

創設パートナー 11社

コンサル・システム会社Accenture、Booz Allen、Deloitte、PwC
セキュリティ会社CrowdStrike、Palo Alto Networks、Dragos、Nozomi Networks、Insane Cyber
設備メーカー日立 Rockwell Automation
↓届ける
重要インフラの事業者電力、水道、工場、交通、政府のシステム
↓
なぜ会社を通すのか動いている設備に触れるのは、事業者がもともと信頼している会社だから
持ち込む日立が持ち込むもの鉄道やエネルギーの現場で培った制御システム(OT)の知見を、ワーキンググループで共有
持ち帰る日立が持ち帰るもの得た知見で「HMAX Cyber」を強くし、自社の制御機器のセキュリティも上げる
相手は止められない設備修正を当てるために止めることができず、分かっている穴が何年も残る

出典 Anthropic「Cyber Mission」(2026-10-08)、日立製作所ニュースリリース(2026-10-09)

日立はこのプログラムで得た知見を、AI時代の事業継続を支援する自社サービス「HMAX Cyber」の高度化と、制御システムのサイバーセキュリティ強化に反映するとしている。外向きの協業であると同時に、自社サービスへの還流を見込んだ動きでもある。

2. なぜ今なのか

止められない設備という事情

重要インフラのセキュリティが難しいのは、技術の問題というより運用の問題である。発電所や浄水場で動いている制御システムは、止めれば供給が止まる。脆弱性が公表されても、修正プログラムを当てるために装置を停止させる判断が、すぐには下りない。

一般的な企業システムであれば、深夜や週末に短時間止めて更新できる。制御システムでは、止められる枠が年に数回の定期点検しかないことも珍しくない。結果として、修正が公表されてから実際に適用されるまでの期間が、数か月から年単位に伸びる。その間、危険だと分かっている穴を開けたまま動かし続けることになる。

さらに、稼働している機器には10年、20年と使われ続けているものがある。設計時にインターネット接続を前提にしていない世代の装置が、遠隔監視や業務効率化のためにネットワークへつながれている例も多い。守る側は、更新できない機器を抱えたまま防御を組み立てる必要がある。

日立も発表の中で、停止が許されないインフラではシステムを止める必要がある修正の適用が容易でないことを、背景の筆頭に挙げている。Anthropicはさらに踏み込み、機械を安全に更新できる時期まで修正を待つ必要があり、まれに数十年かかる場合もあると書いている。

重要インフラは、普通のシステムと同じやり方では守れない

違いは「止められるかどうか」から始まる。そこに、攻撃する側がAIで速くなったという変化が重なった。

普通の業務システム社内のサーバー、Webサービス、パソコン
制御システム(OT)発電所、浄水場、工場の生産ライン、鉄道の運行
止めて直せるか
夜間や休日に止めて、修正を当てて再起動できる
止めれば停電や断水、生産停止になる。修正を当てるために止めることができない
分かっている穴が残る期間
修正が出たら、次の作業枠で当てられる
安全に止められる時期まで待つため、何年も残る
機器
汎用のサーバーとOS。手順や道具がそろっている
メーカーごとの専用機器。変更そのものが事故の原因になりうる
だから 止めずに穴を見つけ、直す順番を決める作業をAIで速める。日立はこの「止められない現場」の知見を持ち込む。

出典 Anthropic「Cyber Mission」(2026-10-08)、日立製作所ニュースリリース(2026-10-09)

攻撃側だけが速くなっている

もうひとつ背景として挙げられているのが、AIの進展によって攻撃が迅速化しているという点である。

脆弱性が公表されてから、それを突く攻撃コードが出回るまでの時間は年々短くなってきた。コードの解析や攻撃手順の組み立てに生成AIが使われれば、この時間はさらに縮む。公表と同時に攻撃が始まる前提で考えなければならない場面が増えている。

一方で守る側は、前の節で見たとおり簡単には止められない。攻撃側の速さと防御側の遅さの差が、構造的に開いていく。

この差を埋める手として出てきたのが、守る側でもAIを使うという発想である。装置を止められる時期そのものは変えられなくても、どの脆弱性が自社のどの装置に該当するのか、どれを先に手当てすべきなのかを速く判断できれば、限られた停止枠の使い方が変わる。発表にある「脆弱性の迅速な検出と修復」は、おおむねこの領域の話だと読める。

日立が持ち込むもの

AIベンダー単独では、重要インフラのセキュリティは組み立てられない。制御システムは、一般的な情報システムとは前提が違うからだ。使われている通信の規約も、機器の構成も、止められる条件も独自のものになる。どの装置がどの工程を担っていて、何を止めると何が連鎖して止まるのか。この種の情報は、実際に設備を納めてきた事業会社の側にある。

日立は電力、鉄道、水処理といった社会インフラの設備を手がけてきた。プログラムに持ち込むOTの知見とは、そうした現場で実際に何が動いていて、何が止められないのかという蓄積にあたる。

今回の参画までに、日立は段階を踏んできた。2026年5月にAnthropicと戦略的パートナーシップを結び、6月には公開前の最上位モデルを使う「Project Glasswing」に加わった。7月には、そのモデルをグループ内の100以上の用途に試し、既存のツールでは見つからなかった深刻な脆弱性の候補を自社のソフトウェアや外部公開APIで見つけたと公表している。数百万行のソースコードに対する脅威モデルの作成は、数週間かかっていたものが数時間で済んだという。9月には、その知見を使ったサービス「HMAX Cyber」の提供を始めた。

提携、自社での試用、成果の公表、製品化と進んできた先に、今回の枠組みへの参加がある。自社の現場で効くと確かめてから外に出る順番を踏んでいる点は、ほかの参加企業と比べたときの日立の特徴といえる。

日立は5か月かけて段階を踏み、参画に至った

日立とAnthropicの発表を時系列に並べる。提携 → 自社での試用 → 成果 → 製品化 → 枠組みへの参加の順に進んだ。

日立の発表 Anthropicの発表

2026年5月19日

戦略的パートナーシップを締結グループ全体にClaudeを導入し、Cyber CoEが攻撃検知を高める
約29万人にClaudeを導入

6月5日

「Project Glasswing」に参画公開前の最上位モデルで、自社ソフトの脆弱性を探す
Mythos限られた企業だけが使えるモデル

7月28日

自社で試した成果を公表既存のツールで見つからなかった深刻な脆弱性の候補を発見
数週間→数時間数百万行の脅威モデル作成

9月

「HMAX Cyber」の提供を開始現場に技術者を送り込む形で展開
製品化試用の知見を外へ

10月8日(米国時間)

Anthropicが「Cyber Mission」を開始重要インフラ向けの防衛プログラムを立ち上げ
11社創設パートナー

10月9日

日立が創設パートナーとして参画制御システムの知見を共有し、HMAX Cyberの強化に返す
参画

出典 日立製作所ニュースリリース(2026-05-19、06-05、07-28、10-09)、Anthropic「Cyber Mission」(2026-10-08)

組み合わせとしては、AIの能力を持つ側と、守る対象の実態を知っている側が同じ枠組みに入る形になる。重要インフラのセキュリティで繰り返し指摘されてきた「現場を知らない対策は現場で使えない」という問題に対して、提携という形で答えを出そうとしていると読める。

3. 日本の企業にとって何が変わるか

この発表は、日本企業に2つの方向を示している。

ひとつは、重要インフラの防御にAIを使う流れが、研究や実証の段階から、設備を持つ事業者を巻き込む段階に入ったこと。もうひとつは、制御システムのセキュリティが、設備ベンダーとAIベンダーの組み合わせで提供される形に寄っていくことである。

自社に制御系の設備を持つ企業であれば、次の3点を確認しておくと、この流れに追いつきやすい。

  1. 停止を伴う更新ができない設備が、自社にどれだけあるか把握できているか。台帳がなければ、優先順位の判断そのものが始まらない。
  2. 脆弱性が公表されたとき、自社のどの装置が該当するかを調べる手順が決まっているか。機種と版数が分からなければ、該当するかどうかも判定できない。
  3. 設備ベンダーからのセキュリティ情報が、自社の誰に届く設計になっているか。調達部門で止まって、運用側に回っていない例は多い。

生成AIを脆弱性の調査に使う場合は、制御機器の構成情報をどこまで外部に渡してよいかという線引きも先に必要になる。設備の型番と配置は、それ自体が攻撃者にとって価値のある情報だからだ。

まとめ

官民連携 / 2026年10月9日

日立、Anthropicの重要インフラ防衛に創設パートナーとして加わる

11社創設パートナー
5か月提携から参画まで
01 何が起きたかAIで穴を見つけて直す枠組みに、設備メーカーとして入った

Anthropicは、インフラ事業者が信頼する会社の製品やサービスにClaudeを組み込んで届ける。日立はワーキンググループで制御システムの知見を共有し、得たものを「HMAX Cyber」と自社の制御機器に返す。

ほかの10社 Accenture、Booz Allen、CrowdStrike、Deloitte、Dragos、Insane Cyber、Nozomi Networks、Palo Alto Networks、PwC、Rockwell Automation

02 なぜ今か止められない設備に、速くなった攻撃が向いている

止められない 修正を当てるために止めることができず、分かっている穴が何年も残る

速くなった AIで、公開から悪用までの期間が大幅に縮んだ

試して効いた 日立は自社で、数百万行の脅威モデル作成が数週間から数時間になったと公表した

03 日本の企業にとって設備を守る手段が、委託先を通じて届き始める

1 制御システムを見ている委託先や保守ベンダーが、AIでの診断にどう取り組んでいるかを聞いておく

2 止められない設備ほど、直せる日までの間にどこが危ないかを把握しておく

3 攻撃側の速さに合わせ、見つけてから直すまでの手順を短くする

出典 日立製作所ニュースリリース(2026-05-19、07-28、10-09)、Anthropic「Cyber Mission」(2026-10-08)

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