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公表情報からは見えないサイバー攻撃の裏側:原因と攻撃手法を徹底予測

前回の記事では、国内で相次ぐ被害の公表を1件ずつ調べた。
調べるほど、同じ一文に行き当たる。

「不正アクセスを受けました」

どこから入られたのか。何を使われたのか。
肝心なところは、公表文を読んでも分からない。

原因が明かされていない以上、個別の事件の答えは出せない。
だが、攻撃者の側を追った調査報告には、手掛かりが残っている。今回は、そこから原因と攻撃手法を予測する。

先に、分かったことを1つ。
入口は、最新の脆弱性とは限らなかった。

攻撃はどれほどの規模で観測されているのか

入口は、正規のサインイン画面と使い回された認証情報2つの調査報告が記録した攻撃を、工程ごとに並べる

Microsoft 2026年9月22日EvilTokensフィッシングの仕組みを売るサービス
AWS 2026年2月20日FortiGateへの侵入少人数の攻撃者による作戦
01規模
12,000超のメールボックス。1万を超える組織で侵害された点1つがメールボックス1つ
600台超のFortiGate。55カ国以上、2026年1月11日〜2月18日点1つがFortiGate1台
02入口
生成AI誘導メールを送る請求書、提案依頼、パスワードの期限切れなど44種類の題材。相手の役職に合わせた文面を生成AIが作る
公開された管理画面を探すインターネットから届く管理画面を、4つのポート(443・8443・10443・4443)で走査する
03突破口
正規の画面にコードを入力させるサインイン済みの利用者なら、コードの入力と確認だけで攻撃者の接続が承認される
使い回された認証情報で入るFortiGateの脆弱性の悪用は観測されなかった。多要素認証のない管理画面が入口になった
04侵入後
生成AI狙う相手を選ぶ生成AIがメールを読み、財務・経営・管理の担当者を選び出す。10分以内に端末を登録して居座る例もあった
生成AI社内の奥へ進む設定の解析、偵察の道具、攻撃計画を生成AIが作る。認証基盤とバックアップのサーバーを狙う
図1:MicrosoftとAWSの調査報告が記録した内容を、工程ごとに並べた。「生成AI」の印は、報告が生成AIの使い道を具体的に挙げた工程。点の位置と点灯の順序に意味はない。数えているものが違うため、2つの規模は互いに比べられない。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

「1万を超える組織で、1万2,000を超えるメールボックスが侵害された」

Microsoft Security BlogMicrosoft「EvilTokensの調査報告」(2026年9月22日)Unmasking EvilTokens: Getting to the root of device code phishing | Microsoft Security Blog

EvilTokensは、犯罪者にフィッシングの仕組みを提供するサービスだ。Microsoftによれば、生成AIは誘導メールの作成だけでなく、奪ったメールボックスから財務担当者などを探すためにも使われていた。

「FortiGateの脆弱性の悪用は観測されなかった」

Amazon Web ServicesAWS「AIを利用した攻撃者によるFortiGateへの大規模侵入」(2026年2月20日)AI-augmented threat actor accesses FortiGate devices at scale | Amazon Web Services

AWSが観測したのは、2026年1月11日から2月18日の攻撃だ。55カ国以上で600台超のFortiGateが侵入された。入口は、外部に公開された管理画面と弱い認証だった。生成AIは、従来の手口を大規模に実行するために使われた。

「2026年1〜8月に公表・悪用された脆弱性は141件で、2025年通年の127件を上回った」

Google Cloud BlogGoogle「生成AI時代の脆弱性の発見と悪用の動向」(2026年9月30日)Vulnerability Discovery and Exploitation Trends in the AI Era | Google Cloud Blog

数えているのは、攻撃の回数や被害企業数ではなく、悪用が確認された脆弱性の種類数だ。Googleは、既知の脆弱性を攻撃に使う動きが増加の主因とみている。ただし、増えた分をすべて生成AIの影響と認定したわけではない。

我々は、攻撃の調査報告と公開ツールを確認した。以下では、それらを根拠に、侵入から被害に至る経路を考える。

生成AIは攻撃のどこを担うのか

攻撃の自動化は、生成AIが登場する前からある。大量の接続先を調べ、同じ処理を繰り返す。これは従来のプログラムでもできる。変わったのは、その途中の判断まで任せられる範囲だ。

先ほどのAWSの報告には、次の一文がある。

「より攻めやすい対象へ移った」

Amazon Web ServicesAWSの調査報告(2026年2月20日)AI-augmented threat actor accesses FortiGate devices at scale | Amazon Web Services

相手の防御を必ず突破する必要はない。試す相手を増やし、入れそうなところへ移ればよい。AWSの報告からは、少人数でも、この作業を広く回せるようになったことが分かる。

GitHubには、その作業を進めるための道具が公開されている。CyberStrikeAIの公開資料では、既存のセキュリティツールを生成AIの作業に組み込む構成が示されている。Strixの公開資料にも、ブラウザ、プロキシ、ターミナルなどを使い、対象を調べて検証する設計がある。いずれも防御側の検証に使える。人が調べていた作業を任せるための部品が、すでに公開されている。

公開ツール:判断と実行を繰り返す仕組み

考える部分を生成AIが、実行を既存のツールが受け持ち、その往復を繰り返す。
人が指定対象と目的どこを調べ、何を確かめるか
01生成AI次の作業を選ぶ何を、どのツールで調べるか
02ツール接続・検証するブラウザやターミナルで実行
03生成AI結果を読み取る応答・成功・失敗を確認
繰り返す結果を次へ
AWSの観測次の対象へ移る防御が固い環境では粘らず、攻めやすい対象へ移った
公開ツールの設計終了する目的の達成、制限への到達、人による停止
Strixが備える道具HTTPプロキシブラウザターミナルPython実行環境攻撃対象の洗い出し
CyberStrikeAIが呼び出せる道具(100以上)ポート走査Webの検査脆弱性の検査クラウド設定の検査侵入後の調査
図2:StrixとCyberStrikeAIの公開資料にある設計と、AWSの観測をもとに整理した作業の循環。全工程の自律実行や成功を保証する図ではない。公開資料の確認日:2026年10月7日。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

この循環で省力化されるのは、「次に何を調べるか」「この応答は何を意味するか」と考える部分だ。大量実行は従来のプログラムが受け持ち、生成AIは結果の解釈や手順の調整を助ける。この組み合わせなら、対象ごとに環境が違っても、その結果に応じて手順を変えられると考えられる。

ただし、生成AIの能力を比べるときは、与えられた条件を見なければならない。コードを丸ごと読ませた実験と、外から通信だけを見て調べる攻撃は違う。ARTEMISと人間の侵入テストを比較した研究は実ネットワークを対象にしているが、防御側が試験を認識し、通常なら阻止する動作を許可した条件も含む。研究での成績を、そのまま一般企業への侵入成功率にはできない。

公開リポジトリについても同じだ。READMEに機能が書いてあること、実装されていること、実際の攻撃で成功したことは別々の証拠だ。この記事では公開資料から設計を確認しており、ツールを実行して性能を検証したわけではない。

相次ぐサイバー被害の原因と攻撃手法は何か

「不正アクセス」と聞くと、管理者のアカウントを奪う手口を思い浮かべるかもしれない。しかし、管理者にならなくても起きる被害がある。

「ログイン中の利用者が、その対象に対して要求された操作を行う権限を持つか、確認しなければならない」

api-security.owasp.orgOWASP「オブジェクト単位の認可の不備」(2023年版)API1:2023 Broken Object Level Authorization - OWASP API Security Top 10

ログインで本人を確認するのが「認証」だ。その人が、どのデータに何をしてよいかを確認するのが「認可」だ。会員本人でも、別の会員の注文履歴を読めてはいけない。この確認が抜けると、アプリとサーバーの窓口であるAPIを通じて、他人の情報の取得や変更に至ることがある。

PrivHunterAIの公開リポジトリには、異なる利用者の権限で得られる応答を生成AIで比較し、認可の不備を検出する設計が掲載されている。これは「その作業を生成AIに助けさせる仕組みが公開されている」証拠だ。国内の被害でこのツールが使われた証拠ではない。

侵入経路:何が入口になり、どんな条件で被害に至るか

入口は3つ。被害に届くかどうかは、真ん中の条件で決まる。
01OWASPPrivHunterAI
入口一般の会員として利用
成立する条件APIが対象データの権限を確かめない
起こり得る被害他人のデータに届く情報の取得・変更・削除
02MandiantMicrosoft
入口従業員・委託先の認証情報を入手
成立する条件盗まれたパスワードやトークンが有効
起こり得る被害正規の権限で業務システムへ業務情報の窃取・不正操作
03AWSGoogleAnthropic
入口公開された機器・サーバーへ接続
成立する条件脆弱性や弱い認証が残っている
起こり得る被害機器を足掛かりに侵入改ざん・侵入拡大・業務停止
図3:公開資料から組み立てた攻撃経路の仮説。各経路の番号の横は、根拠にした資料。個別企業で確認された経路や、発生割合を示してはいない。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

利用者として入って、利用者の範囲を越える

ログインは正しい。確かめていないのは「誰のデータか」だ。
会員Aが、自分の注文を開くGET /orders/1001ログイン済みか確認するAの注文か確認するAの注文が返る
会員Aが、番号を1つ変えて送るGET /orders/1002ログイン済みか確認するAの注文か確認しない会員Bの注文が返る
図4:OWASPが「オブジェクト単位の認可の不備」として説明する仕組みを、注文の照会に置き換えた例。経路と番号は説明用で、特定のサービスのものではない。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

会員向けアプリでは、この認可の不備が原因の候補になる。読み取りの不備なら情報漏洩、更新や削除の不備なら改ざんやデータ消失につながり得る。サーバー全体を乗っ取らなくても、事業に必要な情報が壊される可能性はある。

生成AIが助けるとすれば、機能や応答の意味を調べ、権限による違いを見つける段階だろう。同じ問い合わせを繰り返す処理まで生成AIで行う必要はない。したがって、「大量のデータが抜かれた」という結果だけで生成AI利用を推定するのは難しい。

確かめるには、利用者ごとの要求の記録と、サーバー側の権限確認を突き合わせる。WAFという通信の防御装置を置いていても、その要求が業務上許されるかまで把握できるとは限らない。

システムを破る前に、入れる鍵を手に入れる

どちらも、システムは破られていない。正規の利用者として入られている。
Mandiant 2024年6月Snowflake顧客環境への攻撃盗まれたパスワードで入る
Microsoft 2026年9月22日EvilTokens承認させてトークンを奪う
01奪い方
端末の情報窃取マルウェア従業員や委託先の端末から、保存されたIDとパスワードを抜く。最も古い感染は2020年11月
正規のサインイン画面攻撃者が発行したコードを利用者に入力させる。攻撃者の側は3〜5秒おきに承認を確かめ、トークンを受け取る
02通る条件
3つの不備が重なった多要素認証がない。盗まれた後も変更されていない。接続元を制限していない
コードでのサインインが使えるサインイン済みなら、コードの入力と確認だけで承認が通る
03侵入後
データを持ち出して恐喝テーブルを一覧し、圧縮して外へ出す。その後、被害組織を脅し、データを売りに出した
痕跡を隠して居座る受信トレイのルールでやり取りを隠す。10分以内に端末を登録した例もあった
04規模
約165組織に通知。使われたアカウントの79.7%以上は、過去に認証情報が漏れていた
12,000超のメールボックス。1万を超える組織で侵害された
図5:MandiantのUNC5537調査報告とMicrosoftのEvilTokens調査報告の内容を、同じ項目で並べた。Mandiantの事案で生成AIの利用が確認されたわけではない。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

もう一つは、すでに盗まれた認証情報を使う経路だ。Mandiantが2024年に調査したSnowflake顧客環境への攻撃では、対応した事案の入口は盗まれた顧客の認証情報にたどり着いた。Snowflake本体への侵害が入口だったことを示す証拠は見つかっていない。MandiantのUNC5537調査報告(2024年6月)は、端末から情報を盗むマルウェアと、その後のクラウド被害を結び付けている。

この事案で生成AIの利用が確認されたわけではない。だが、侵入経路を考える手掛かりにはなる。自社のサーバーを守っていても、従業員や委託先の端末から認証情報が漏れれば、正規の利用者として入られる場合がある。

鍵はパスワードだけでもない。冒頭で紹介したEvilTokensの入口は、正規の認証手続きだ。利用者に攻撃者のアクセスを承認させ、アクセス用のトークンを奪う。侵入先で、どの情報や相手を狙うか。その選別にも生成AIを使う攻撃は、今後も広がると考えられる。

原因を追うには、Webサーバーのログだけでは足りない。認証の履歴、接続した端末、外部サービスへの権限付与まで調査対象になるだろう。

更新の遅れを突く。修正前にも入り込む

増えたのは、修正が公表された後に悪用される脆弱性だ。
2025年10.5件/月
82.5
2026年1〜8月18件/月
117
修正の公表前に悪用(ゼロデイ)公表後に悪用(合計との差で算出)
141件2026年1〜8月に悪用を確認8か月で、2025年通年の127件を上回った
4日公表から最初の悪用まで調査用のAIエージェントが見つけたBeyondTrust製品の脆弱性(CVE-2026-1731)の例。7日以内に6つの攻撃集団が悪用した
50%生成AIが見つけた脆弱性のうち、遠隔でコードを実行できるもの公表された脆弱性の全体では26%
図6:Googleの報告にある、悪用が確認された脆弱性の月平均。ゼロデイは報告値、公表後の件数は月平均の合計からゼロデイを引いて算出した。攻撃の回数や被害企業数ではない。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

既知の脆弱性も、有力な入口だ。AnthropicのN-day研究(2026年6月8日)は、公開済みの修正情報から攻撃コードを作る能力を評価している。Windowsの評価ではソースコードを渡さず、修正前後のバイナリなどを材料にしていた。

ただし、これは研究者が環境や資料を用意した実験だ。インターネットから対象を発見して侵入する全工程の実証ではない。それでも、公開された修正を攻撃者も分析できる点は変わらない。修正から手口を組み立てる時間が短くなれば、適用を待つ環境は狙われやすくなる。

冒頭のGoogleの報告には、修正公開前に悪用された脆弱性も含まれる。原因を一律に「更新を怠った」とは判断できない。パッチを適用した時点で、すでに別のアクセス手段が残されていた可能性も調べる必要がある。

侵入後にWebページを書き換えられる権限があれば、決済情報の窃取につながり得る。社内の管理基盤まで届けば、情報を盗むだけでなく、システムやバックアップを壊す方向にも進める。どこまで被害が広がるかを決めるのは、入口の種類に加え、その入口から届く権限と接続先だ。

なぜ、これほど多くの会社が狙われるのか

対象ごとの調査にかかる手間が下がれば、攻撃者が採算を取れる範囲は広がる。大企業だけを慎重に選ぶ必要はなくなる。入れるところを探し、見つかった環境から情報や金銭につながるものを探す、という順番でも動ける。

「これまでに公開された中で、最も高いサイバー能力を持つオープンウェイトモデル」

NISTNIST・CAISIによるGLM-5.3評価(2026年9月17日、評価時点の比較)CAISI’s Assessment of Z.ai’s GLM-5.3 Cyber Capabilities

モデルの重みが公開されれば、利用者は自ら用意した環境でも動かせる。公開ツールと組み合わせる選択肢も広がる。ただし、計算資源や運用の費用は必要だ。誰でも無料で高度な攻撃を成功させられる、という意味ではない。

Anthropicの評価(2026年9月29日)では、ChromeのV8にある既知の脆弱性から一連の攻撃コードを作る試験で、GLM-5.3が410試行中50回、Mythos Previewが410試行中56回成功した。限定された評価で近い結果が出たのであって、あらゆる攻撃能力が同等だとまでは言えない。

公開モデル:隔離環境で測った攻撃コードの生成能力

公開モデルのGLM-5.3が、Mythos Previewに近い回数で成功した。
GLM-5.312.2%50 / 410
Mythos Preview13.7%56 / 410
同じ試験で、Kimi K3、DeepSeek-V4.1-Flash、Claude Opus 4.6、GLM-5.2の4モデルは0%付近だった。
図7:既知のV8脆弱性から一連の攻撃コードを作る、隔離環境での試験。点1つが1試行で、各モデル410試行。約12.2%と約13.7%は報告値から算出。企業への侵入成功率ではない。出典:上記Anthropic評価。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

性能とともに見るべきなのは、その能力を誰が使えるかだ。特定のサービスが不正利用を止めても、別のモデルや自前の実行環境へ移る余地がある。

犯罪の道具を、自分で一から作る必要もなくなっている。Microsoftの犯罪対策部門の報告(2026年9月22日)によれば、冒頭のEvilTokensは、定額の利用料金、顧客サポート、管理画面を備えたサービスだった。攻撃に必要な機能を購入できれば、開発経験の乏しい者も利用できる。公開ツールの普及に加え、こうしたサービス化も、攻撃に参加する負担を下げると考えられる。

攻撃の拡大:探索・横展開・サービス化の組み合わせ

Strix・CyberStrikeAI100以上調査の負担が下がる生成AIから呼び出せる既存のツールの数。対象ごとの確認を任せられる
AWS600台超弱点を横に展開する少人数の攻撃者が39日間で侵入した台数。同じ製品、似た設定を探す
Microsoft1,500ドル犯罪の道具がサービスになるEvilTokensの初回料金。月額500ドルで、管理画面と顧客サポートが付く
予測個別には小さな機会でも、多数を扱うことで採算が合う
図8:公開ツール、AWSの観測、Microsoftの犯罪サービスに関する報告から組み立てた仮説。数値は各資料の記載。各要因の寄与率や、国内被害の増加率は算定できない。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

これらの情報から、入れる弱点を先に探し、侵入後に得られる価値を見て攻撃を進める場面が増えると予測する。「小さい会社だから狙われない」とは言えない。取引先への接続や業務用アカウントも、攻撃者には利用価値がある。

一方、ニュースが集中した日と、実際に侵入された日は一致しない。国内の公表件数だけで攻撃が何倍に増えたか、生成AIが何割を占めたかは出せない。公表の集中と攻撃の増加、生成AIの利用は、分けて判断する必要がある。

何を見直し、どう対策すべきか

入口が違えば、止める場所も違う。パスワードを強化しても認可の不備は残るし、盗まれたトークンが更新だけで無効になるわけでもない。第3章で考えた経路ごとに、対策を整理する。

「ネットワークの分割と、利用者の識別に基づくアクセス制御を整えるべきだ」

Google Cloud BlogGoogle「AIが脆弱性を発見する時代の企業防御」(2026年4月16日)Defending Your Enterprise When AI Models Can Find Vulnerabilities Faster Than Ever | Google Cloud Blog

Googleは、修正を検証する間のアクセス制限や隔離を、迅速に実施できる手順も求めている。防御の設計には、更新前の時間と、侵入された後の時間を含める必要がある。

対策の位置:どこで防ぎ、どこで止めるか

入口ごとに、止める場所が違う。
防ぐ・早く止める
確かめる・備える
01APIの認可不備OWASP
最初に抑える対象ごと・操作ごとの権限確認
検証する別の利用者・別の組織のデータでテスト
02認証情報の悪用Microsoft
最初に抑える端末と委託先を含めた認証の管理
失効させる不審なセッション・連携権限の失効
03機器からの侵入AWSGoogle
最初に抑える公開範囲の制限と更新
拡大を止める接続先の分離・侵害の痕跡の確認
04侵入後の被害拡大CISAOWASP
早期に止める異常の検知と隔離
復旧に備えるデータの削減・バックアップの保護
図9:図3の攻撃経路に対応する対策。OWASP、Microsoft、AWS、Google、CISAの指針と報告をもとに整理。すべての侵入を防ぐ保証ではなく、止められる場所を増やすための図。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

「ログインできるか」の先をテストする

正常な利用ができることに加え、許されない操作が拒否されることを確かめる。

  • 会員Aが会員Bの情報を読めないか。
  • 閲覧だけの担当者が更新できないか。
  • ある取引先のアカウントで、別の取引先のデータに触れないか。

誰が何をしてよいかを、利用者と操作の組み合わせで確認する。

そのためには、誰が何をしてよいかを言葉とテストで残す必要がある。OWASPの認可テスト自動化の指針も、この確認を継続するための参考になる。生成AIに検査を手伝わせる場合も、業務上の権限ルールを渡さなければ、どの動作が誤りか判断する材料が足りない。

更新・検知・隔離までを一本につなぐ

検知で終わらせない。止める操作までを、あらかじめ決めておく。
監視する合図
止める・戻す操作
01認証情報の悪用Microsoft
不審な受信トレイのルールルールの作成を検知して通知する。危険と判定されたサインインには自動で対応する
トークンを失効させる更新トークンを取り消し、再認証を求める。封じ込めのため、アカウントを一時的に止める
02機器からの侵入AWS
社内での不審な動き想定外の認証情報の複製(DCSync)、VPNのアドレスからの管理接続、バックアップの認証情報への不正なアクセス
入口を閉じ、鍵を替える管理画面をインターネットから外す。VPNの認証情報をすべて替え、使い回しを調べる
図10:MicrosoftとAWSの調査報告が勧める対応から、監視する項目と、その後の操作を抜き出した。すべてを網羅したものではない。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

異常を検知しても、止める担当者や権限が決まっていなければ対応は進まない。運用では、次の点まで決めておく。

  • 公開機器の一覧に担当者が書かれているか。
  • 緊急時に接続を制限する判断を誰ができるか。
  • アラートが出た後、夜間でもアカウントや端末を止められるか。

通知が届くだけで終わらず、停止や隔離まで動けるかが問題だ。

認証情報が漏れた疑いがあるなら、パスワード変更だけで解決するかも見極める。すでに発行されたトークンや外部連携の権限が残っていれば、その失効も必要になる。何を無効化し、どの記録で再侵入がないか確認するのかを、利用しているサービスごとに決めておく。

盗まれる量と、止まる範囲を小さくする

盗まれる量を減らし、壊されても戻せるようにする。
OWASP01持たない保存していない情報は盗まれない。集める目的と、必要な期間を決める
AWS02分けるAWSの事例では、バックアップのサーバーの認証情報が狙われた。通常のネットワークから分け、書き換えられないコピーを持つ
CISA03戻せるか試すオフラインの暗号化バックアップを取り、復旧のテストで実際に使えるかを確かめる
図11:OWASPの指針、AWSの調査報告、CISAのガイドが挙げる備えを、3つに整理した。 図は資料をもとに我々が作成したもので、転載ではない。

「機密情報を守る最善の方法は、そもそも保存しないことである」

cheatsheetseries.owasp.orgOWASP「保存データの暗号化に関する指針」(2026年10月6日確認)Cryptographic Storage - OWASP Cheat Sheet Series

何のために集める情報か、いつまで必要かを決める。決済情報を自社で扱う範囲を減らす方法も検討する。ただし、決済を外部へ委託しても、自社の画面の改ざんや連携権限の管理まで不要になるわけではない。

復旧については、バックアップが存在することと、攻撃後に使えることを分けて考える。CISAのランサムウェア対策ガイドは、オフラインの暗号化バックアップと、可用性・完全性を確かめる復旧テストを勧めている。日常の管理アカウントが奪われても復旧用データまで失わないか、実際に戻せるかを確認する。

今後、調査や試行を生成AIに任せる攻撃が増えるなら、年に一度確認した状態と、日々変わる実環境とのずれは、さらに狙われやすくなるだろう。防御側も、権限テスト、資産の把握、ログの確認を継続して回す必要がある。

公表文だけでは分からなかった「どこから入られたのか」に、今回は複数の経路を挙げた。どれが実際の原因だったかは、各社の調査を待つことになる。一方、自社に同じ条件が残っているかは調べられる。認可の確認が抜けたAPI、有効なままの古いアカウント、担当者の分からない公開機器。予測を対策に変える作業は、そうした箇所を一つずつ確かめることだ。

出典

調査報告・論文・公開資料を表示する(17件)

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